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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)4411号 判決 1983年1月14日

原告 ホーマット株式会社

代表者代表取締役 松村二郎

<ほか七名>

原告ら訴訟代理人弁護士 田宮甫

同 堤義成

同 齋喜要

同 坂口公一

同 鈴木純

被告 中央観光事業株式会社

代表者代表取締役 槁本義輝

訴訟代理人弁護士 青木逸郎

同 小澤淑郎

主文

被告は、原告らに対し、それぞれ別表記載の金額欄の各金員とこれに対する付帯請求日欄の各期日から各支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

主文一、二項と同旨の判決と仮執行宣言。

二  被告会社

原告らの各請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、被告会社が経営するゴルフ会員クラブ「松田カントリークラブ」(以下「本件クラブ」という、)へ入会しようとして、原告高橋表美は昭和四七年一二月一四日、同角田兵三は同月一八日、同諸沢ナナ子、同高島昭吾は同月二五日、同ホーマット株式会社(記名は松村二郎、諸沢宏治)、同佐藤弘は同月二六日、同田中皓は昭和四八年二月七日、同真木真は同年三月五日、それぞれ被告会社との間で各自二〇〇万円(原告会社は四〇〇万円)を被告会社に預託する旨の契約(以下「本件預託契約」という。)をし、各自契約の日に右金員を被告会社に交付した。

2  本件預託契約によると、右預託金は、預託の日から五年間据え置き、その後は預託者から返還請求があり次第返還する約定があった。

3  原告真木真を除く原告らは、昭和五六年三月三〇日到達の内容証明郵便で、原告真木真は、同年五月七日到達の内容証明郵便でそれぞれ被告会社に対して本件預託金の返還を請求した。

4  よって、原告らは、被告に対し、それぞれ本件預託契約に基づき、預託金(別表の金額欄の金員)とこれに対する返還請求の日の翌日(別表の付帯請求日の期日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  抗弁

1  原告らが本件クラブ入会の際に承認した「松田カントリークラブ規則」(以下「本件規則」という。)七条ただし書によると、本件クラブ理事会の決議によって、本件預託金の据置期間を延長することができることになっていた。

2  理事会は、昭和五二年一〇月一三日、本件預託金の据置期間をゴルフ場開場まで延長する旨決議した。

四  抗弁に対する認否

抗弁1の事実は認め、同2の事実は不知。

五  再抗弁

1  本件クラブ理事会は、被告会社の役員又はその関係者だけで構成されているものであるから、一般会員の意思を無視して一方的に不利に変更する理事会の決議は、原告らに対抗できない。

2  しかも、被告会社は、昭和五一年にゴルフ場開場を条件に会員を募集した。しかし、被告会社は、土地所有者の高松山開拓農業協同組合との契約に違反したために売買契約を解除されただけでなく、ゴルフ場建設に必要な一切の許認可手続を経ていず、八億円ほど集めた会員の保証金もすべて費消していて、到底ゴルフ場を建設できる状態ではない。したがって、このような状況でされた理事会の決議は、無効である。

六  再抗弁に対する反論

被告会社は、本件ゴルフ場敷地として高松山開拓農業協同組合所有の土地を買い受けたが、契約上のことで同組合と紛争(静岡地方裁判所沼津支部損害賠償請求事件、当庁昭和五三年(ワ)第一二七〇〇号事件)が生じたが、右訴訟も和解で解決する見通しがつき、近い将来ゴルフ場開場の見込みがあり、被告会社もこれに向けて努力中である。したがって、このような状況のもとでされた理事会の決議は、有効である。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  抗弁1の事実は、当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》によると、抗弁2の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

三  再抗弁について

1  《証拠省略》によると、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  被告会社は、昭和五一年にゴルフ場を開場する条件で本件クラブの会員募集をした。しかし、被告会社は、本件ゴルフ場建設に必要な用地の取得について、高松山開拓農業協同組合ないしその一部の組合員との間で調整がつかず、これに関して現在民事訴訟が係属中である。そのため、被告会社は、用地の確保ができず、本件ゴルフ場の建設工事に着手していず、本件理事会決議当時、近い将来に本件ゴルフ場を開場することが極めて困難な状況にあった。

(二)  しかも、本件決議から五年経過した現在でも、前記民事訴訟が解決しておらず、本件ゴルフ場の用地の確保ができていない(この点、被告会社も、和解の見通しが明るくなったと主張するだけで、和解成立の確実性について主張、立証をしていない。)。また、被告会社は、ゴルフ場開設に必要な許認可手続も経ていない。

2  以上の事実によると、本件理事会決議当時、近い将来にゴルフ場の開場が見込まれる事情がなかっただけでなく、それから五年経過した現在でもゴルフ場開場の目途が全く立たない状況であることが認められるから、本件理事会決議は、本件規則七条ただし書によって理事会に与えられた権限を逸脱したものとして、無効である。

3  したがって、本件理事会決議によって、本件各預託金債権の弁済期を変更することはできない。

四  よって、原告らの本件各請求は、理由があるので認容し、民訴法八九条、一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 春日通良)

<以下省略>

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